岡田麿里の作品はやっぱり苦手

 4日に「さよならの朝に約束の花をかざろう」を見たので感想。フィルマークス(https://filmarks.com/users/tonkatu123)で書いたのを軽くリライトして。ネタバレあるので未視聴の方は注意です。あとわりと酷いことも書いてるので「さよなら〜」がすごく好き、号泣したっていう人も注意。

 

 

良い点から

 

まずはアニメーション。平松禎史はプロモーションに熱心で結構アピールしてたし、PAの堀川憲司がしょっちゅうツイートしてた井上俊之も前情報でメインアニメーターとして参加していたのは知ってた。その期待に応える素晴らしい作画。特に堀川憲司がやたら井上俊之の歩き、走りの芝居についてツイートしてたと思うんだけど、なるほど非常に面白い走りの芝居が見られました。マキアが走るシーンはどれも良い。特にアバンの龍に襲われるところなんかはコントラストがすごく良かった。龍はたぶんCGだと思うんだけど、重量感とスケールがよく表れててよかった。最近の3DCGアニメーションはほんとびっくりするぐらい良い。

井上俊之ツイッター始めたのって本作がきっかけなの?

(追記:推敲中にツイッター見てたらこんなツイートがあったんだけど、龍ってもしかして手描き…?

だとしたらやべぇな…)

 

次に背景美術。とても綺麗だった。一緒に見た知人が「新海誠と違って透明感がある感じ」と言ってたんだけど、確かにそんな感じがする。

美監の東地和夫が以前インタビューで、背景は感情の器でキャラや観客の感情が宿るものだから主張してはいけないって言ってて、透明感ってのはそのことだろうなって思う。

同じインタビューで東地和夫は、ロケハンして撮った参考資料にあまり忠実になりすぎないである程度主観を混ぜて描いてる(凪あすとかAB!のこと)って言ってたけど、本作のありそうでない中世風の世界は見頃に現実感と空想の溶け合った美しい背景だった。実写とは違って手描きだから出せるものだね。

 

忘れちゃいけないのが音楽。川井憲次攻殻機動隊のイメージというかほぼそれしか知らないんだけど、こんな正統派の劇伴作れたのか。映画の雰囲気にマッチしていて素晴らしかった。攻殻の傀儡謡めっちゃ好きなんだけど、この川井憲次もすごく良い。主題歌も綺麗で良かった。

 

最後にストーリーの中での良い点。と言っても記事名で分かる通り岡田麿里はどうも苦手みたいで総評としては微妙です。

その中でも良かった点。これは今まで見てきた岡田麿里脚本作品に共通することなんだけど(悪い点も共通してるけど)、全てをさらけ出すこと。

岡田脚本は絶対にキャットファイトがあるなんてネットではよく言われるけど、あながち間違いじゃなくだいたいキャラが喧嘩する。その時にキャラが自分の感情をこれでもかというくらいストレートに全部吐き切るのが他の人の作品とは違う点だと個人的には思う。普通ならオブラートに包む言葉とか表現とか、恥ずかしくて言えない本音とか、汚らしい穢れた面をありのままぶつけてくるのが岡田麿里で、そういうシーンは本当に心臓を握りつぶされるような苦しさを感じる。

本作で一番響いたのは反抗期になったエリアルがラングに怒られて泣くシーン。自分も男の子で反抗期を経験してるので刺さること刺さること。エリアルの「なんでそんなにあの人(マキア)が優しくしてくれるのかわからない」とかマジでやめてくれ…って思いました。このシーンはちょっと泣いちゃいました。

他にもクリムとかレイリアは心を揺さぶってくるキャラクターだった。特にレイリアはすごかった。レイリアのみで一作作って欲しいくらいドラマがある。岡田麿里が穢れを描くっていうことでは、何回かあるレイリアの子宮(お腹)を強調するカット。普通は女性の子宮とか月経とか生理出産に関する描写って避けられがちだと思うんだけど、そこをあえて隠さないことでぐっとストーリーに重みが増すと思う。出産シーンもあったしね。出産シーンに関しては、CLANNADがダントツだと思ってるのであれだけど。

 

キズナイーバーなんかは設定からしてそうだけど、岡田麿里のこういう包み隠さない描写は個人的にとても好きです。でもそれが原因で悪いところも生み出してる。

これもよく言われることだけど、泣かせがひどい。

 

岡田麿里の描く心理は本当にリアリティがあって共感性が高いんだけど、現実ではそういう感情って簡単には片付かないものだと思う。恥ずかしながら自分も反抗期以来親との関係はちょっとぎこちないです(まぁ男の子が親とベタベタしてるのもどうかと思いますが)。岡田麿里はそれを典型的なお涙頂戴演出で大団円!ってしてしまうのが毎度冷める。今作だってマキアとエリアルは喧嘩別れしてからまともな心理描写がないのに何故か仲の良い二人に戻って死に際看取ってありがとうみたいな。そこ至る過程を描いてくれよと思ってしまう。

以下フィルマークスで非常に勉強になったせーじさんのレビューから。

 

そして、そういううわべだけの「愛」は描くのに、肝心な部分は主人公が"くすぐって"はぐらかしてしまったり、時間経過ですっ飛ばして省略してしまったりで、きっちりと描こうとしていないのだ。そこに、根深い欺瞞を感じ取ってしまう。

また、人の一生を描く以上避けては通れない「性」の問題を完全にすっ飛ばして描いているので、妊娠や出産の描写はあっても、その前のプロセスを描かないのはおかしいと思った。何も性交描写を描けとは言わないが、登場人物たちが惹かれあい愛し合うプロセスや、子供を産むことを受け入れるプロセスを描く必要は絶対にあったはずだ。

そもそもこの作品は、特殊なルールによって時制が要所要所で大幅にすっ飛ばされるが、画面上では「主人公たちの種族以外の登場人物の加齢」だけでしか語られないので、誰が誰なのかもわかりづらいうえ、言動も断片的なので、登場人物の感情の変化が追いにくい。

 

このように、こういう題材を映画作品として観る上で、描いてほしいし観たいと思う部分を、この作品ではことごとくすっ飛ばしてしまっている。そんな作品なんだなこれ…と読み取れたあたりで、だんだんとイライラが募っていってしまった。主人公よりも"彼"のほうが早く死ぬのかと思いきや!?…みたいな展開がある訳でも無し。しかも色々あっても「約束されたエンディング」がきっちりと待っているというのが最初から提示されているので、物語上で起きた出来事についていっこも感情移入できなかったのもしんどかった…。そして、本当にその通りに何のひねりも無いまま、最後の最後できちんと愁嘆場を感動的にこなしてくださるので、サラウンドで聞こえてくる幼少時からの彼の声を聞きながら、もう無理だなこの作品…と思った次第なのであります。

さよならの朝に約束の花をかざろうのせーじの映画レビュー・感想・評価 | Filmarks

 

これは単に自分の読解力不足なのかもしれないが、マキアとエリアルは結局母子愛なのか男女愛なのかがわからない。エリアルがマキアを守ると言ったのに喧嘩別れしてディタとくっついて、そのくせ戦争終わって再会も束の間別れるところで「かあさん!」っていうのはちょっとなぁ。もっとエリアルの内面を描いて欲しかった。しかも「かあさん!」のシーンは演出も音楽も泣けよ泣けよと言わんばかりの大盛り上がりで最悪だった。そっからお涙シーンの連続で、周りは一気にすすり泣きモードなのに自分はどんどん冷めた。レイリアとメドメルが初めて会うシーンとかもっと複雑な感情が出てくるだろう!もっと尺を取ってくれよ!と思ったのによくわからん二言三言でレイリアが「私は飛べる!」と言ってアバンの伏線回収。結局それがやりたかっただけか、と。

一方でマキアは泣かないっていう約束を守って、最後の最後で「やっぱ守れないよ」で泣かせにくる。二人とも約束を守ってるならまだしもエリアルは破ってるし、そういう泣かせが欲しかったから適当に約束の話を挿入したのかと疑ってしまう。エリアルはどっちかというと女性としてのマキアを好きになってしまったのかなとか思ったんだけど、マキアに関しては全く気持ちがわからない。息子としてエリアルを愛しているのか男としてなのか。そこらへんのマキアの愛が定まってないから母親として、あるいは女性としてのマキアの成長というのが一切ない。見た目よろしくずっと幼い処女のままの主人公を見せられても感動できない。関連していうと、石見舞菜花は初主演(?)でデビューから浅いのにすごい良い演技だなぁと思ったけど、それはマキアの生娘っぽいところだけで母親らしさを全く演じれていなかったのは指導なのか皮肉なのか。

にしてもほんとにレイリアの件は許せない。あれなら最初からサブストーリーを挿れないでくれ、マキアとエリアルの話だけにして掘り下げればいいのに、と思ってしまう。マキア以上にレイリアには感情移入してたので。マキアとレイリアは住む世界全く違うからどちらも描くと話が右往左往する。映画じゃなくてTVアニメで丁寧に描いてればまた違ったろうけど。

 

最後にちょっとだけ声優の話をすると、ミドの佐藤利奈が最高だった。佐藤利奈マジで好きです。禁書見てからずっと好き。名塚とやってるガフレラジオもたまに聴いてる。名塚がそんな好きじゃないからたまにだけど。最近聞いてないんだけどまだ続いてるよね?

王様の声も良かった。エンドロールで見逃したんだけどたぶん大川透?なんか聞いたことある人。

 あとタイトルについて。個人的になろうの「異世界~」みたいなテンプレタイトル大嫌いで、作品の名前をそんなチンケなものにすんじゃねぇといつも思うんですが、延長で長文のタイトルもあんまり好きじゃないんですよね。設定とか主題とかをタイトルで全部説明しちゃっていいの?みたいな。「さよなら~」も妙に長ったらしくてあんまり好きじゃなかったんですけど、やっぱり見てからも納得できない。さよならの朝に約束の花かざってないじゃん。花のモチーフもちょっと出てたけどイマイチわかりづらい描写だったし。あの花とかここさけとか岡田麿里はちょっとむず痒くなるようなタイトルをよくつけますね。

 

 

あの花とかとらドラとか迷家とか、岡田麿里の作品はキャラクターがやりたい放題やり散らかしてからの最後は綺麗にまとめようとするのをいつも惜しいなぁと感じる。そこさえどうにかなれば岡田麿里はすごく好きな作家なんだけど。

と言って毎回落胆するのに何故か岡田麿里は次も見たくなるよくわからない引力を持ってると思います。堀川憲司もこんなこと言ってた。

 

ここさけはまだ見られてないんだけど、どうしようかなー。

あとそうそう、ユリイカ岡田麿里特集も読みたい!

 

(追記その2:岡田麿里のインタビューをいくつか読んで思ったこと。読んでから記事書けよって感じだけど、まぁ第一印象はそのまま形にしたいので。

 

まずキャラクターデザインについて。吉田明彦という名前は今まで意識してこなかったけど、なんと元スクエニの方。FFⅫ、ベイグラントストーリータクティクスオウガ、ニーアオートマタなどなど、すごい人でした。たしかに言われてみるとFFⅫっぽさあるね。クリムなんかはちょっとゲームとかでいそうだなとは思っていたけど本当にゲーム畑の方が担当されていたとは…。グランブルーファンタジーとかめっちゃ近いなとか思うんだけど、ウィキ見ると寄稿の欄にグラブルがある。寄稿ってなんだ? 現在吉田明彦はCygamesの子会社にいるらしいのでまぁ当たらずとも遠からずってところですか。

次に美術設定・コンセプトアートデザインの岡田有章。この方も存じ上げませんでした。ウィキを見るとドラグナーサムライトルーパーガオガイガーとかサンライズの人だったのかな? 自分はてっきり東地和夫が元締めだと思っていたんだけど、美術設定・コンセプトアートってことは岡田有章があの世界を構築した張本人らしい。素晴らしい才能ですね。個人的にFFⅥ、FFⅦてきなスチームパンクサイバーパンク感が好きなので中盤の鉄鋼の街のところがすごい好き。マキアとラングが二人で話すところをめっちゃ引いて撮ってる画とかとても良かった。

キャスティングについて。石見舞菜花はお母さんの役割を全うするのに一杯一杯になってる怒り方が気に入ったらしくて採用されたみたい。たしかに母親になろうと一生懸命になってる感は出てたけど、そこから成長がないのはなぁ。見た目の成長は止まっても内面は成長してほしい。やっぱり成長した主人公の姿っていうのは大事なんじゃないかな。石見舞菜花の演技は指導だったわけですね。)

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