劇場版『若おかみは小学生!』 感想

 

話題沸騰中の『若おかみは小学生!』を見てきました。その感想です。ネタバレあります。

 

 

本来TVシリーズと劇場版を同じ土俵で語ることは横暴ですが、午後に映画を見ようと午前中TVシリーズを一気に見たため、意識せずとも比較してしまい…。今回はTVシリーズとの比較からはじめます。

 

まずウリ坊の出会いから若おかみになるまでの流れが急でした。特にTVシリーズの方(第一話)は出来が良かったのでちょっと導入が駆け足だなぁって感じです。

それと人外3人衆の描写がやや薄い。ウリ坊とみよの掘り下げは別れのカタルシスに直結するのでもう少し丁寧にしてほしかったかな。TVシリーズだともっとウリ坊かっこいいんですよ! みよと真月(秋野家)との話もじっくりやっていたので少し残念でした。鈴鬼ももっと愉快なキャラクターなのですが、映画では達観した感じです。ですが、他の人のレビューを見ている限りではあまりそこに不満を抱いてる人はいないようなので、映画単体としては十分だったのかな?

原作を読んでいないのでどちらがより近いのかはわかりませんが、種々のエピソードをあのような形でまとめたのは上手いなと思いました。

 

ここまではTVシリーズとの比較の話なので映画自体の評価ではありません。

次、映画そのものの感想に移ります。

 

おっことトラックの運転手の和解までの尺が短かったです。おっこの飲み込みが良すぎるかと。ラストシーンがあっさりしている分、そこで感情の波を大きく持ってくるべきなのでもう少しゆっくり尺を使ったほうが良いと思いました。先述のウリ坊とみよの描写不足に関連しますが、あの場面で二人にもう少しライトを当ててほしかったですね。

それと同じシークエンス内で非常に気になったのが、運転手が「俺が轢いてしまった関夫妻のたった一人の娘である織子ちゃんと一緒にいることはできない」というようなことを言うところなんですが、セリフが説明的すぎます。セリフを丸々覚えているわけではないので少しバイアスがかかってるかもしれませんが、それまで宿帳や新聞の切り抜き、運転手側からの事故の話など直接的な表現を避けてきたのに、あの場面でメタ的な説明セリフを入れて一歩引いてしまうと感情移入が阻害されてしまいます。むしろあそこは明言しないことでじっくりとおっこの心理に迫っていく展開であったはずなのに、そのセリフは良くないでしょう。

また、そのセリフを聞いて真月が「えっ」と驚くのも違和感があります。真月は運転手家族の宿替えのために来ており、峰子さんから事情を聞いているはずなのでその反応はおかしいんじゃないかと思いました。事情が事情なので、峰子さんが詳しいことを話していなかったとは考えづらいですし、真月も事情をわかっている様子だったので。

 

以上がマイナス面です。ここの細かい部分を決めたのが脚本の吉田玲子さんなのかコンテ切った高坂監督なのかは分かりませんが、少し甘かったと思います。

 

 

プラス面は多くの方がいろいろなところで書いているのでここで並べ立てる必要もないですが、僕が特に特に良いと思った部分をいくつか。

 

まず何と言っても冒頭の神楽からの事故シーンですね。逸る音楽にオーバーラップするシテ、POVで飛び出してくるトラック。TVシリーズを見ておっこの境遇は知っていたので、車の話が出たときから動悸が止まりませんでした。

その場面を受けて、グローリーさんと出かけたときのフラッシュバックがまた素晴らしいです。おっこの過呼吸と、冒頭の映像がトラウマになっている観客の息の詰まるような閉塞感がシンクロし、おっこに同化していく手腕はあっぱれです。その後のウリ坊とみよの登場と買い物パートへの緩急のつけ方も見事です。

そして僕が個人的に最も好きなのが鈴鬼が鼻緒を結ぶショットです。淡々と鼻緒を結ぶ鈴鬼の動作のひとつひとつに感情が宿り、別れを伝える鈴鬼の気持ちが作画を通じて伝わってくる、まさに芝居をするアニメーションでした。誰が原画を描いてるのか知りたいです。

おっこが両親を恋しがる度に幻が差し挟まれる演出も良かったですね。あえてショットとショットをそのままつなぐことで、おっこの心理がうまく表れていました。

 

 

マイナス面はたいへん惜しいですが、総合的には素晴らしいです。非常に高クオリティな作画と脚本、演出と三本揃った傑作でした。山賀監督も『蒼きウル』作ってるし、なんかもっと増えませんかね、往年の監督たちの作品。沖浦さん新作作んないかな…

 

 

追記(2018/10/01)

なんとなくジブリその他アニメのオマージュを感じたところが多々あったので書き連ねておきます。

 

両親のキャラデザインが、父はトトロのお父さん、母はヤマトの森雪(というか松本零士風?)。まぁ何人かジブリ感のあるキャラデザインはいたのでどっちかっていうと監督の描き癖かな? お母さんはなんであんなデザインなのかよくわかんないです。*1

 

あかねくんが鳥居前でぐったりしてる場面のクロースアップはハウルですね。

 

真月さんの自室(図書室かも?)は湯婆婆の部屋。

 

あかねくんのためにケーキ買いに行くシーンは、千尋が豚になった両親を見て逃げ出すところですね。スナックのネオンが点くとこや、おっこの走り方が似てます。というか、走りはジブリっぽさがある場面がちらほらありましたね。

 

どの場面か失念しましたが、おっこの髪の毛をしぼますことで感情を表現する作画もジブリ特有のものですね。

 

原画も背景もジブリ出身のスタッフが何人かいらっしゃるので手癖と判断することもできますが、髪の毛やあかねくんのハウルショットなどは意図してやってると思います。

 

他にも気づいたところがある方はコメント教えてくれると嬉しいです。

 

 

追記その2

息づくスタジオジブリのDNA 映画『若おかみは小学生!』 - ゲーマーズライフ

この記事を読んで。

音楽は『東京ゴッドファーザーズ』の鈴木慶一さんなんですね。っていうかお名前意識したの初めてです。『MOTHER』の人なんだ。

 

主題歌は藤原さくらさんの『また明日』ですが、同じ藤原さんでもTVシリーズ後期EDの『NEW DAY』の方が好きですね。『若おかみ』の雰囲気にも合ってるし。

 

www.waka-okami.jp

 

 

 

 

 

*1:僕は、『宇宙戦艦ヤマト』のファンでしたから、森雪役の麻上洋子さん(一龍斎春水の旧芸名)といえば憧れの方でもあるんですよ。それに、原作者の令丈(ヒロ子)さんも、かつて「宇宙戦艦ヤマト ファンクラブ」に入っていたそうなので、喜んでくれるかなと思って。まあ、それは冗談ですけれど(笑)。

Read more: https://www.excite.co.jp/News/reviewmov/20180920/E1537374248949.html?_p=3#ixzz5SyhkgAeY

記事からの引用です。監督が『ヤマト』好きっていうのが理由っぽいですね。