口コミによる映画ヒットの是非

先日、劇場版『若おかみは小学生!』の記事を書きました。

ikire-b.hatenablog.com

 

すでにそのとき、Twitterを中心に口コミが盛んになっていたのですが、現在さらにその勢いは増しています。

前記事で書いた通り、『若おかみ』についてはおおむね高評価です。今回は作品の内容ではなく受容、つまりなぜ『若おかみ』がじわじわと広がっているのかについて考えてみたいと思います。

 

 

 

過去記事で何回か書いたことがありますが、僕は基本的に人気作というのが嫌いです。ひねくれ者の天の邪鬼なので、他人が絶賛しているとうんざりしてしまうのですが、そのバイアスは自覚しつつもこの加熱ぶりはやはりおかしいんじゃないかと思うわけです。

 

大きな物語が失われたと言われる現代においても、(日本)人は物語を求めているように思えます。

 

話が少しずれますが、ネット上ではテレビ嫌いの方が多いですね。直近でも某番組が出演者のフィギュアを勝手に持ち出したり食生活の違いを否定する内容を放送して炎上していますが、個人的には、みんなはなんでまだテレビを見ているんだろう?と思いました。

ここでいうテレビは主にバラエティ番組を指していますが、僕はテレビを見てません。バラエティ番組に関しては全く見ていないです。好きではないですし、興味もないからです。テレビが嫌いであるなら見なければいいのに、それでも定期的にテレビ番組の炎上は起きています。思うに、未だ我々は物語を希求しており、物語のもっとも手近な供給源であるテレビは今なお支配的であるのでしょう。正直、テレビ番組はリハーサルがあるガチガチの台本世界なので今回炎上した番組もやらせの部分が大きいと思います。編集も扇情的なので、穿った見方をすれば炎上も想定内だったかもしれません。それでも人はテレビを求めてしまうのです。

 

 

閑話休題

つまりは、24時間テレビが嫌いとは言うけれど、金足農業高校羽生結弦選手など物語を求める心は人々に残っているわけです。

 

そう考えてみると、昨今の口コミによる映画のヒットも物語を求めた結果ではないかと思えます。

その旗手となり、また最も大きな物語として語り継がれているのが『この世界の片隅に』ですね。クラウドファンディングを利用して制作され、さらに少数の劇場公開から口コミで上映数を増やし、2年近くのロングランも行なっていますが、『この世界』という作品そのものが民衆のヒーローとなって物語を作ったわけです。

 

どうもそれを再び求めるような雰囲気があると思うんです。

最近だと『カメラを止めるな!』も口コミでヒットしましたが、これも低予算などいかにもな物語要素が見受けられます。

一時期Twitterで「マックで拍手喝采が〜」などの実話風ツイートが流行ったことがありましたが、それを見てもやっぱりみんな“イイ話”を求めているんだなと感じます。

それと同じように、(おそらく無意識に)口コミからのヒットという感動物語を作ろうとしているのではないでしょうか。

『若おかみ』の口コミを見ても、はじめは「思ったより」「子供向けだと思っていたら」という(それはそれで非常にムカつく)ものが多いように感じましたが、今では「ずっと泣きっぱなしだった。ほんと全ての人に見て欲しい」とか「大人から小学生までみんなが泣いていました」とか「若おかみのここがイイ!若おかみはいいぞ」といった「マックで」構文に負けず劣らずの眉唾感動口コミばかりで、少し異常な気がします。

 

つまるところ、第二の『この世界』美談を多くの人が待ち望んでいるように思えるのです。

 

先にも述べましたが、僕も『若おかみ』は優れたアニメ映画だと思います。でもそれを言ったら『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』や『リズと青い鳥』や『さよならの朝に約束の花をかざろう』など2018年内でも素晴らしい作品はたくさん公開されているんです。*1

しかしどう見ても世論はそれら他作を差し置いて、『若おかみ』が『この世界』に次ぐ世紀の超傑作かのように扱っています。口コミで人気が出て興行収入が上がることは喜ばしいことですが、僕はどこか不健全な感じを覚えてしまいます。

先ほどのテレビの話につなげますが、ある意味で感動ポルノに近い、暴力的な口コミの圧力というものがあるように思えます。僕は誰かに作品を薦めるというのはあまり好きではなく、それは嗜好の押し付けであるので、なんらかのメディアで感想を発信するときも自分が感じたことのみを記すように心がけています。だからこそ、「すげー感動するからみんなも見てよ!」と圧迫してくるやり方は好きではありません。ある意味でそれは、障害者を取り上げて、スタジオで涙する芸能人のワイプを見せ、サライを歌う、まさにあの感動ポルノと同じ人の心を煽る醜い行為だと感じます。私は泣いた、君も見て泣こう!そう言っているように聞こえるんです。

 

 

 

僕個人のひねくれた見方するなら、『シン・ゴジラ』-『君の名は』以降の映画ブームにつられて浮上した自称映画大好きの方達が、ワイワイ盛り上がってお祭り騒ぎできる新しいおもちゃとして『若おかみ』がターゲットになった、そんな感じがするんですね。

まぁどのような形であれ興行収入が増えてクリエイターたちが潤うこと自体は良いことなので、あまり水は差さずに、過激なことは弱小個人ブログでひっそり書くに留めます。

*1:一つ見落としてはならないのが、サクセスストーリーを作れるのならどんな作品でも良いというわけではなく、大衆受けの平均点80点の内容でなければならないという点です。

『若おかみ』は誰が見てもだいたい「いい話だ」と思える内容になっています。『カメラを止めるな!』は未視聴なのでよく知りませんが、コメディ的であるようなので大衆受けはバッチリなのでしょう。『この世界』は言わずもがな。対して高品質なのに売れない、という灰かぶり状態でありながら口コミでヒットしなかった作品の『手をなくした少女』『リズ』『さよならの朝に』などはどれもいささか尖っており、大勢の人に受け入れられるかと言えばそうではないでしょう。まさにここが感動ポルノ然とした箇所であり、おっこを薄幸の少女として偶像化しカタルシスを共有することで自己承認に至る人々の気持ち悪さがあるわけです。